INTERVIEW

<インタビュー概要 (通訳・文 中井奈々子、撮影・佐藤悠玄)>

2018年11月 「演出家リロ・バウアーによる俳優・ダンサーのためのWS」が今年も開催され、4日目のこの日。

演劇企画団体コムナルカ「俳優たちの夜」上演によせて、リロ・バウアー氏とのインタビュー対談が行われました。 インタビュアーには演劇以外のジャン ルでも活躍目覚ましい、贅沢貧乏の主宰・山田由梨さんを迎え、 対談者は昨年までWSに参加していたコムナルカ発 起人のうち野口卓磨、近藤彩香の2人。 すべての始まりの場所である、東京芸術劇場リハーサルルームLにて...

◆インタビュアー:山田 由梨 劇作家・演出家・俳優。贅沢貧乏主宰

東京都出身。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。2012年の旗揚げ以来全ての贅沢貧乏の作品のプロデュース、劇 作・演出を手がける。 俳優としても、舞台、映画、CM等に出演する傍ら、雑誌等にエッセイを寄稿するなど活動の幅を広げている。

対談者

◆リロ・バウアー Lilo Baur (以下 リロ)

女優・演出家。 サイモン・マクバーニー率いるコンプリシテの「ルーシー・キャブロルの三つの人生」でタイトル・ ロールをつとめ、マンチェスター・イブニング・ニュース賞とドラ・カナディアン賞でベスト女優賞を受賞。ほかにピー ター・ブルック演出「ハムレット の悲劇」や、映画では「ブリジット・ジョーンズの日記」など、数々の作品に出演。演 出家としてはコメディ・フランセーズでの「他人の首」がベスト・プレイに選出され、ボー・マルシェ賞を受賞。

◆野口 卓磨 (以下 野口) 俳優。NODA・MAP、贅沢貧乏、五反田団、モダンスイマーズ、範宙遊泳などの舞台に出演。コムナルカ発起人。

◆近藤彩香 (以下 近藤) ダンサー。NODA・MAP、泥棒対策ライト、夏木マリ、カルメン・ワーナー作品などに多数出演。コムナルカ発起人。

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―本日はよろしくお願いします。

全員 よろしくお願いします。

―リロ・バウアーさんのWSのお話は野口さんやうちの劇団メンバーから聞いて、すごく興味を持っていたので今日はお話できて嬉しいす。日本でのWSは今年で3回目とのことですが、WSを行う上でどうゆう事を大事にされていますか?

リロ WSには、毎回違うテーマを、身体的な要素から選んでいます。 それと同時に、イマジネーション(想像力)を開かせるようにしています。 なぜなら私は、人はみんな自分の中に世界を持っていると思っていて...たとえ異なる文化から来ていたとしても、それぞれの内なる世界を 合わせることで新しい何かを創りだせると信じているからです。

―このWSには俳優だけではなく、ダンサーも参加すると聞いていますが、その意図を教えていただけますか?

リロ それは、私のWSが身体的要素を伴うからです。身体を通した言語をつくるようにしているんです。身体から発される、表現される言語を。 私は身体的な言語を使ったパフォーマンスなら、世界中どこの国にも行けると思っています。そしてどの国の人々もそれぞれ何か自分との繋がりをそこに見出すでしょう。なぜなら、言語の壁がないから。それは視覚的なもの、イメージをとおして伝えられるものだから。

―​ 純粋に聞いてみたいのですが...ここ3年WSをやってきて、日本の俳優についてどう思われますか?

リロ 私が何度も日本に戻ってくる理由は、日本の俳優が身体を通して表現する方法が大好きだからです。

日本の人は私たちとは異なる訓練方法、または意識を身体に対して持っていると思います。

そういうことに昔から興味を惹かれるんです。以前ダンスカンパニーで仕事をしたこともありますが、私にとって身体性とはスポーツであれ、指の動き1つであれ、同じなんです。それは、動作や身体を通じて発せ られるものから、何か共通点を見つけることなんです。例えば、こうやって座るか...(足を組んで座ってみせる)、こうやって座るか...(足を大きく開いて座ってみせる)...どう...(立ってものを拾う素振り)...全てに意味があるんです。すべての細部に。 

―お二人は、最初のWSに参加されているんですよね?

近藤 はい、2年前から参加させてもらっています。

ー お二人は、ながく野田秀樹さんの作品に参加されていて、身体を使うことに関しては長けていると言いますか...やってこられていると思うのです が、リロさんのWSを受けて刺激受けたことやそこでの発見はなんでしたか?

近藤 WSのチラシを見つけた時、「俳優・ダンサーのためのWS」って書いてあって、そこにまず壁を感じなくていいなぁって思いました。 私はダンサーで、野田さんのところに出演もしたのですが、きちんと演劇の勉強をしたことがなくて...演劇のWSも自分にはちょっと無理かなっ ていつも思っていたんです。なので「俳優・ダンサーのための」と書かれ ているのを見て、是非行ってみたいと飛び込みました。 本当に恥ずかしいことを言うと...芝居って漫画の「ガラスの仮面」じゃないけど、「私は...魚なのよ」とか思 う気持ちから表現することなのかと勝手に思っていたんです。もちろん野田さんのところでそれは違うってわ かったけど、じゃぁどうやって芝居作っていくの?というのはわか らないでいたところ、リロのWSでひとつ ひとつ細かく、フィジカル的なことも学べたんです。それはダンスの表現にも通ずるし、すごく為になっています。勉強になっています。

野口 僕が印象的だったのは、リロが作る「風通しの良い稽古場」です。演技に対して、ダメ出しするのではなく、 「どう見えたのか」と言う事実や感想だけを述べるんです。そうすると、シーンを観ている俳優たちも、ダメ を探すのではなく、自分ならどう やって豊かに発展させられるのか、何故このシーンは面白いのか、という目 線で観察が始まります。自然と建設的な意見が飛び交うんです。 その時、リロは「そういう時は、こういう方法もある」という提案を、演技を交えてしてくれるんですけ ど。指先、表情、姿勢、歩き方など、必ず身体の使い方にフォーカスするんです。身体の使い方に関しての提 案なので、すぐに実行に移せるし、イメージしやすい。 そして、 楽しい(笑) 身体で発見した事って、身体 に残るんですよね。だからWSを終えた後も、ずっと身体にその感覚があるんです。

―お話を聞いていて、リロさんのWSはものすごく自由な場なんだなと印象を受けています。 リロさんが俳優に求めることはなんですか?

リロ 好奇心があって、開いていて、新しいことに挑戦する準備が出来ていることだと思います。すでに知っているやり方を打ち壊せること。 私たちはみんな癖を持っているし、「そうゆう風にやってる時、良いよ」とか人に言われてきています。 そのため、同じようなキャラクターを 全く別の作品でも繰り返し演じてしまっていることがよくあります。

だから、私はよく小説を使うんです。小説をもとに、舞台をつくっていくんです。舞台のために書かれた戯曲ではなく... もちろん戯曲作品も たくさんやりましたが...小説の物語を一緒にさぐって創作していくのは私にとっても、新 しくてワクワクすることなんです。

今日のWSでやったように、4つのグループに分かれて創作をして、お互いにつくったもの見るということもよくやります。

表現をする人であると同時に、観る人でもある。私は、子供のようなものの見方、視野に戻っている時が大好きなんです。

子供は絶えず発見をし続けます。そして、子供にとっては全てが新しくて、遊びになるんです。 ...地面に葉っぱが落ちていたら、それで遊び はじめる。それが好奇心です。

近藤 リロのWSを受けていると、パフォーマーとしてのテクニカルな部分ももちろん成長するんですけど...このシーンを自分だったらもっとこうし たいなとか、なんというか演出脳も同時に学べているような気がします。

ー それはすごく大事なことですよね。 最近私も、相互にとってクリエイティビティな場を作るには、俳優からでてくるもの、俳優の作家性・ ディレ クションもすごく大事だと思ったんです。自分の話で申し訳ないんですけど...今年全部即興でやる新しい作品 を1本やったんです。

いくつかのルールだけあって、だけどそのルールをどう発展させるかは全て俳優次第。ある意味、台本という ルール...台本の可能性の拡張。 大きなルールだけを作ってその中で俳優は自由に、その作品をその場その場で創る。

リロ 一緒ですね!

即興には、制約があるんです。決められたテーマの中でやる、そこから外れてはいけないんです。 その制約こそが、新しいものに発展する力をくれるんです。

―台本がない、実験的な作品を初めてお客さんの前でやったんですけど、それはすごく収穫があったのをお話を聞いていて思い出しました。 リロさんのWSを受けたことが、コムナルカという団体を立ち上げるきっかけにすごくなっていると思うのですが、どういう思いで立ち上げたのか聞かせていただけますか?

野口 これをやりますって言った時に俳優仲間やお客さんから「ついに劇団を立ち上げたんですね」って言われて、僕はびっくりしたんですけど... と言うのも、劇団ではなくて...じゃぁ何かと言うと...僕は常々、俳優というのは、演出家、プロデューサー、 戯曲がないと何も出来ないの か? ということに、もどかしさを感じていたんです。 もちろん俳優は、待つのが仕事なんだけど。オーディションを待って、役を待って、結 果を待って...だからこそ、いかに能動的に待つかを考えています。 そんな中、リロのWSでは戯曲を使わずに、グループワークでどんどん短いシーンを作って、最終日にお 客さんを呼んで発表したんです。 それがもう、とにかく楽しくて!ダンサーも演出家も俳優もいて、「表現したい!」って欲求がある人たち が、バッと集まってものを創り出 す。 そのパワーみたいなものが、そのまま舞台にのせられないかなと。あのショウケース面白かったって声がたく さんあったので、今回も何 かそうゆうことがやりたいなと。ショウケースではなく、公演としてお客さんに観 てもらいたいと思ったんです。 なので、先に場所をおさえて、「僕たちはやるんだけど...どう?みんな、面白いことをちょっと一緒にやって みない?この指とまれー」て(笑) まぁ、それで結果みんな集まってくれたから良かったけど。(笑)

―「ついに立ち上げた」って言われたと仰っていましたけども、私もそう思いました。

 (一同 笑)

野口 山が動いたって言われました。

 (一同 笑)

―というのも、野口さんに私の作品に参加して頂いた時に、常に何かを表現したくて堪らない人で、待っているのが似合わない感じがしたんです。 私は野口さんを演劇妖怪だと思っているので...

(一同笑)

―なので私もすごくワクワクしています。

面白いのは俳優だけで立ち上げて、全員で演出するって伺ったのですが...立ち上げたのは野口さんと近藤さんと...全員俳優?

野口 全員俳優。それでいて、今ここにいないもう一人(大石貴也)は映画も撮れば、演出もやるけど...でも、もともとサラリーマンで(笑) とても不思議な、また違う狂気と言うか...

近藤 まぁ、違う意味のモンスターだよね。(リロに)タカヤ。

リロ うん、だと思った。

(一同 笑)

―そういうマルチ力って私は大事だと思うんですよね。 そうは言っても、全員で演出ってどうやるんだと興味があるのですが、そのあたりはいかがですか?

野口 本当ですねー。やったことないんです、僕も。やったことないんですが...これは僕の今までやってきた中での感覚でしかないけども、俳優に限らず物作りをする人って、一番力強い瞬 間や、豊かなアイデアにのっ かって遊びはじめる生き物だと思います。...まぁ、構成は僕たちのほうでしてい くかもしれないけども、順番とかね。

今日、僕たちが見学したこのWSもそうだったように、みんながプレイヤーであり演出家で、こうなんじゃな いか、ああなんじゃないのっ て...そういう地続きの中でいけるんじゃないかなって思います。それをやってみたいなって。...失敗したら、次はない(笑)

近藤 公演はしてなかったですけど、シーン作りというか、みんなで何かひとつ創って発表してって野田さんの稽古でもその繰り返しでものを創っているので...その創作方法で、できないことはないと思っていますし、そうしたいなぁって...

野口 その、豊かさを信じたいって感じ。どっちかというと。

近藤 そうそうそうそう!

野口 シーンがね、なんかもう一個うまくいかないなぁって思った時は自分だけじゃないんです。やっぱり、みんな大抵同じとこが引っかかって いるから。そういう時にぱっとこうひらめくと(いいんだけど)...ね。今日のWSでもそれが何度もあったと思う。僕が外から見てて。

リロ そういう時の助けとして...私が海外で仕事をするときによくやるのは、2週間くらいの創作期間のあと、ウェイターやセールスマン、弁護 士とか、普段演劇とは関係のない仕事の人たちに見に来てもらうんです。そし て、彼らに何が伝わったかを確かめるんです。外からの視 点をいれるんです。シェイクスピアの作品を子供に 見てもらったりもします。子供たちが見て、なにが伝わるか。

―リロさんは、自分のWSを受けていたメンバーがこうやって一緒に作品を発表すると聞いて、どう思ったんですか?

リロ ファンタスティック! 素晴らしいことだと思いました。 指導者や、親、友人が独り立ちを祝い見守るように。

私がしているのは、いろんなところに種を蒔いているようなことだと思うんです。そしてそれが...私たちみんなが、どこかからアイデア をもらったり、映画監督のロイ・アンダーソンとか何でもいいんですけど何かから 影響を受けたりするように...私たちはみんな自分にと って大事なアイデアやイメージをどこかからもらってい るんです。そしてそこから自分のもの、自分自身のものを創りだすんです。 だから、私は本当に嬉しかったです。ただ、私が公演を見られないのがとても残念です。

―それは本当に残念ですね。

リロ まぁ、でもきっと素晴らしい作品になるので再演するでしょう(笑) 

近藤 めっちゃいいだろうなぁ再演したら。英語で(笑)

リロ パリでね。

 ―第一回公演は、小説からインスピレーションを受けて作品を創ると伺いました。

野口 えーと...その、種をもらいまして...種、そのまま使うんです。

近藤 そうだね(笑)

野口 ゾーシチェンコ。ロシアの作家で、僕たちもリロのWSで初めて知った、日本でもそれほど知られていない作家なんですけど... 

リロ フランスでもあまり知られていないんです。

―どうして、その小説を作品の題材に選んだんですか?

近藤 リロから去年ゾーシチェンコのお話を紹介しもらって、すごく面白かったんです。 「貧困」とか、「部屋が狭い」とか、わりとネガティブな要素の中にいろんな人が出てくるんです。 そこで繰り広げられる人間味のある、 すごくシュールでコミカルなお話が、なんだか今の私たち...東京にいる 俳優・ダンサー、人口はすごくいっぱいいるけど、みんなが何か を求めてアワアワしたり、もがいている姿と リンクする、つながると思いました。

でも、それでもハッピーに、コミカルに、っていうのが、すごくマッチしているんじゃないかなって思って選びました。

―それはもしかして、タイトルの「俳優たちの夜」にも...

近藤 ...にも繋がる。

野口 繋がるんですねー。

ロシアで本当にあった時代をもとに、描かれた物語なんですけど。共同アパート(コムナルカ)のワンフロアに、30~40人もの人たちが生 活してるんです。部屋が足りないので、ある人はバスルームに、ある人はリビン グに、っていう具合に、ひとつの部屋をさらに仕切って、 ベニヤ板一枚隔てて、他人同士、色んな家族が。 ゾーシチェンコはユーモアで、暗にそんな社会を批判してるんですけど、登場人物がみ んなエネルギーに溢れ ていて。そのエネルギーが「なんかやってやろう!」っていう今の自分たちの姿と重なるのでは?と思いました。

―では、小説をそのままやるというよりは、自分たちの俳優としての気骨みたいなものをのせてやると...

 野口 それができたらいいなって思っています。

―なんだか、すごくエネルギッシュなものになりそうですね。 リロさんから彼らにアドバイスはありますか?

リロ 彼らには先日、ゾーシチェンコの他の小説も渡しました。材料になると思うので。

作品を創るのに必要な喜びやエネルギーは、今もうすでに充分持っていると思います。新しいものを創るのに 必要な情熱も。 後々に必要になるのは、外からの視点を入れること。 でも、きっと素敵な冒険になるでしょう。私は出演者全員を知っているので、彼ら がヘンテコでとても興味深 いものを、そしてきっと観ている皆さんの経験にもどこか通ずるものを創ると思っています。

―最後に、観にいらっしゃるお客さんにメッセージをお願いします。

野口 「俳優たちの夜」というタイトルにもかかっているんですけど...普段僕たちが台本や戯曲がある作品を上演する時は、シーンにそぐわない と言うか、関係ないものは稽古場でそぎ落とす作業が始まるんです。それから、 「ここは舞台にのせよう」とかって選ぶ作業が始まるん ですけども、今回はそれがない作品です。さっき話が あったような、何かを作らなければいけない、舞台にのせなきゃいけないものがあ る時には稽古場でどけられ てしまうような、ヘンテコなものを構成してそのまま出したいんです。もしかしたら、「なんじゃこりゃ!?」っ て口に合わないんじゃないかってものを出したいんです。僕、演劇やっていて、その「なんじゃこりゃ!?」が好きなんです。大いに困って ほしくて...なるべく、口に合うようにはしますけど(笑)でも、おそらく、その時期東京でやっている、ほかのお芝居ではみられないものは必ず見られると思います。 

近​藤 本を読んだり、ダンスを観たり、お芝居を観たりが好きな人って、表現をすることに興味があったり、好きなんじゃないかなって思うんです。 たぶん、みんな人間誰しも表現することはきっと好きで、そういう人たちにとって、これから私たちが創ろう としているものは 一番壁がないものになる気がします。 本当に稽古場を覗いているように、まだ出来立てほやほやのものが出てきたり、観ているお客様にも たくさ ん想像して、参加してもら います。もちろん、「芝居をしろ」とか言うのではないけど、イマジネーションの 中で参加してすごく コネクションの強い時間になると思うので、是非、年始の1発目にコムナルカを観に来ていただきたいです。

―ありがとうございました。すごく楽しみにしているので、頑張ってください。

野口・近藤 ありがとうございます。

リロ ありがとうございました。 ガンバッテ!